回 〜 アメリカで味わった喜びと哀しみ 〜 (3/4)
人生には良い時もあるし、悪い時もある。
喜び、悲しみ。荒波に飲まれない
ためにはパワーが必要なんだ



今でも語り草になっている“あの”決勝戦。
ブラジル戦のことははっきり記憶しているよね?

R ―― 僕はプレーしていないよ(笑)。

君はプレーしていなかった?
スタンドにでもいたのかい?

R ―― あの日、他の用事があったんだ(笑)。

ゲーム前に、「今回は、家にW杯を持って帰る」なんて考えていなかった?

R ―― 決勝戦というのはすべて特別なんだよ。死ぬほど欲しいカップであろうと、4年間にどれだけの犠牲を払おうと、「カップを持って帰ろう」なんてことは言えなかった。地区予選、合宿、厳しい練習、そして、やっとたどり着いた決勝戦を前にしても、そんなことは考えられなかったよ。

すごいゲームだったね。
パサデナの灼熱の太陽。
ブラジルは強いチームだった。

R ―― 彼らは決勝トーナメントをずっとダラスでプレーして、パサデナにはずいぶん早く到着できたという利点があったんだ。それに、すでにあのスタジアムでプレーした経験があったんだよ。要するに、僕らが6時間のフライトで時差を背負いながら到着した時点で、彼らはすでにパサデナで練習していたということさ。

ということは、ブラジルにとってはホームゲームのようなものだった?

R ―― そうだよ。まさにホームゲームみたいなものさ。そんなハンディキャップを背負いながらも、僕らは120分間、ブラジルと対等に戦ったんだ。

そして、今や伝説となった“あの”PK戦……。

R ―― 僕はそこにはいなかったよ(笑)。

バレージがPKをクロスバーの上に外した時、何か悪い予感がしなかった?
「まずいことになりそうだ」なんて考えなかった?

R ―― いや、そんなことはなかった。「僕に番が回ってきたら、どこに蹴るか見ておけよ」と思っていたよ。

パリウーカがマルシオ・サントスのシュートを止めて0−0。
その後、アルベルティーニ、ロマーリオ、エヴァーニ、ブランコが決めて、2−2の同点。そしてマッサーロが外し、ドゥンガが決めて、ブラジルが1点リード。
そして、最後のキッカーは誰だっけ?

R ―― 次はロバだよ……いや、僕だったね(笑)。キックミスだった。でも、たとえ僕が決めていたとしても、その後で彼らが決めれば、どっちみちブラジルの勝ちだったんだ。ゲームを早く終わらせたかったのさ。早く家に帰りたかったからね(笑)。

ボールをプレースする時、何か特別なことを考えた?

R ―― 特にはないよ。いつもPKを蹴る時と同じようなことを考えていた。どこを狙うか、それだけさ。助走に入った時は、すでにコースを決めていたんだ。(腹の当たりを指さし)この高さにボールを蹴るだけだった。なぜ、自分が思っていたより3倍も高いところへいったのか理解できなかったよ。


決勝戦のPK戦でPKを失敗したバッジョは、しばらく立ち上がることができなかった…

ボールがなぜあんな高さにいっちゃったのか、説明できない?

R ―― 説明するのは難しいよ。狙ってあそこにいったんじゃないからね。こうしてペンを机の上に落とそうと思っても、それがソファの下にいってしまう、みたいなことかな。君には説明できる? ボールを蹴るコースは決めてあったんだ。それがなぜあんなに高いところにいっちゃったんだか、僕にもわからないんだ。悪くとも、低いところにいくはずだった。地面すれすれにいくはずだったんだ。あんなに高くいくとは思わなかったよ。

相手のGK、タファレルのことを知っていたんだろう?
彼はセリエAでもプレーしていたし。

R ―― もちろん知ってたよ。
彼とはずいぶん対戦しているし。タファレル相手にPKを決めたこともあるさ。

ということは、どこに蹴れば、彼が絶対捕れないということも知っていた?

R ―― そんな単純なものじゃないよ。PKの時は概してGKが有利なんだ。決められて当たり前、セーブすれば褒められるしね。GKは精神的には有利な立場にあるんだ。彼を知っているとか知らないとか、そういう問題じゃないんだ。問題はボールを蹴る強さにあったと思う。タファレルにコースを読まれていても、強いシュートを打てば捕られなかったと思うし、そうするべきだったかもね。

ボールがクロスバーの上を越えていった瞬間の気持ちを説明してよ。

R ―― まだあのショックから立ち直ってないんだ……それでわかるだろう?(笑)

アメリカW杯はバッジョのサッカー人生にとってどんな意味を持つのだろうか?
PKは別にして……いや、PKの経験も含めて。

R ―― 浮き沈み、かな。
幸せに満ちた瞬間から、恐ろしいまでの挫折感への急降下とでも言っておこうか。

人生の縮図だね?

R ―― そう、人生はそんなものだよ。
人生には良い時もあるし、悪い時もある。
喜び、悲しみ。(人生の)荒波に飲まれないためにはパワーが必要なんだ。
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