アンチェロッティにとって、監督として初めてチャンピオンズリーグを制覇したマンチェスターでの夜は、長い間、彼の心の中に巣食っていた“屈辱”へのリベンジを果たした夜となった。ローマやミランでプレーしたという現役時代のキャリアが気に食わないという愚かなユヴェンティーノから“豚”呼ばわりされたアンチェロッティは、あのマンチェスターでの夜に一流の監督として認められたのだ。確かに、1トップにして、カカーとクラレンス・セードルフをトップ下に据えた、いわゆる“クリスマスツリー型”と言われる4−3−2−1のフォーメーションを採用しているにもかかわらず、2トップでの戦いを執拗に要求するシルヴィオ・ベルルスコーニ会長に「指示どおりにやっている」と思わせるとは、肝っ玉の据わった偉大な監督にしかできない離れ業だと言える。
穏やかで控え目、決して自分からしゃしゃり出ることがない彼の性格は、一部のマスコミから長い間、決定的な欠点として批判され続けてきた。今は、誰もがその性格こそアンチェロッティの長所だとしているが、以前は全くの逆だったのだ。技術面、戦術面だけでなく、プロフェッショナル精神の面でも非の打ち所がない。そのため、マスコミは彼の人間性を批判するしかなかったのである。アンチェロッティは、大食漢であることやいつまで経っても禁煙できないことを、あたかも監督業を続けるには相応しくない重大な欠陥であるかのように指摘された。「アンチェロッティのふくよかな頬はカペッロの意志の強そうなあごより見劣りがする」とか、「彼のたばこはリッピの葉巻より品性に欠ける」といった意味不明な言いがかりをつけられたのだ。常にソフトな口調で話すことを揶揄されたこともあったし、ばかばかしい質問や挑発的な質問を投げかけられても眉をつり上げるだけで決して怒らないこと、それさえも批判の対象となった。
マスコミの多くはアンチェロッティのことを“紳士的過ぎる”と思っていたようだが、実際の彼はマスコミが抱いていたイメージとはかなりかけ離れている。そのあたりのことは、アンチェロッティと意見を対立させた経験を持つシェフチェンコ、カハ・カラーゼ、アルベルト・ジラルディーノらに聞けばすぐに分かること。アンチェロッティは、一見すると穏やかだが、実際はかなり鋭い“とげ”を持っているし、頑固者の側面も持ち合わせているという事実を、彼らは教えてくれるだろう。アテネでリヴァプールを下した直後、ジェンナーロ・イヴァン・ガットゥーゾは「アンチェロッティの頑固な性格があったからこそ、この異常なシーズンを戦い抜くことができた。他の監督だったら、チャンピオンズリーグ制覇なんてあり得なかったはずだ」とコメントしている。
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