2001年7月6日、場所はスタディオ・エンニオ・タルディーニの記者会見室。真っ黒に日焼けした顔、髪を金髪に染め、細いパンツと体にフィットしたシャツを身に付けたナカタが記者団の前に姿を現した。
ナカタにとっても、パルマのパトロン、カリスト・タンツィの御曹子であり、現在会長職にあるステーファノ・タンツィにとっても、首を長くして待ち望んだ瞬間である。
「我々はナカタがペルージャでプレーしていた時から、彼がパルマに来てくれることを望んでいたんだ。今こうして、ナカタがここにいてくれることに大きな喜びを感じている。我々がナカタを獲得したいと思った理由はただ1つ。チームを強くしたいからだ。ナカタの及ぼす経済効果なんて考えてはいない。彼は戦力として貴重な存在だと判断しての獲得だ。我々はナカタのサッカースタイルがとても好きなんだ。それに、彼の精神力の強さにも惹かれている。彼は他のチームでプレーすればもっと年俸が増えるはずなのにパルマを選んでくれた。それに、1週間のバカンスも放棄して合宿に参加してくれると言ってくれている。彼の真摯な態度には敬服せざるを得ない」とステーファノ・タンツィは開口一番語った。
タンツィのお褒めの言葉を聞きながら、ナカタは微笑みを浮かべている。ナカタの表情には心なしか疲労が感じられる。なにせ、前日の晩にロサンゼルスから着いたばかりで、ほとんど寝ていないはずである。しかし、疲労の色の中にも満足感があふれている。
彼は新しいパルマのユニフォームを胸に当て、記者団、カメラマンに笑みを振る舞った。彼には新しい番号が準備されていた。背番号10、トップ下の選手、ファンタジスタの象徴とも言うべき背番号である。
入団発表に引き続き短い記者会見が行われた。ナカタが流暢なイタリア語で“パルマでのスクデット”を口にした時、会見室に陣取った記者団の中から拍手が巻き起こった。日出る国からやってきたカルチャトーレの新たな挑戦の始まりである。そして、その挑戦が成功することをパルマ市民は心から願っているのだ。
短い記者会見が終わった後、ナカタは地元のローカルTV(テレドゥカート)、ミラノのテレ・ロンバルディア、さらにRAI(イタリア国営放送)の矢継ぎ早の質問に、流暢なイタリア語で丁寧に答えた。ここでは、TVの質疑応答をまとめて記載しておこう。
* * *
ナカタ、君はなぜ、パルマを選んだのかな?
N ―― パルマには説得力があったんです。最初の交渉の時から、サッカー面の話しかしなかったんです。ピッチ上の僕を期待してくれているという印象を受けました。それに、ペルージャでの初年度が終わった時にも僕を欲しがってくれたということも知っていました。それらすべてが僕の選択につながったと思います。
ただ、3日間とはいえ、パルマはルイ・コスタ獲得に傾いただろう?
不愉快ではなかったかな?
N ―― どのチームだってルイ・コスタを欲しがると思いますよ。あのポジションでは世界最高の選手の1人ですからね。ただ、ローマが“障害”を作らなければ、あの3日間の前に僕のパルマ入りは決まっていたんです。いずれにしても、間接的とはいえ、ルイ・コスタと比べられたということを不愉快なんて思っていません。むしろ光栄だと思っているくらいですよ。実際、その直後にパルマは僕を獲得するためにベストを尽くしてくれた。それだけで十分です。
自分がチームにとって重要な選手だと感じることが必要だったのでは?
N ―― ローマでスクデットを手にしました。それはそれで素晴らしいことだと思っています。夢見ていた感動も味わいました。それに、ゲームに出た時は、重要な選手なんだと感じることもできました。ただ、予想していたより出場回数が少なかったということには残念な思いがしています。僕の唯一の願いはピッチに上がってプレーすることなんです。
ウリヴィエリ監督はすでにレギュラーポジションを保証してくれたんですか?
N ―― いや。レギュラーポジションを保証してくれる監督なんて存在しないですよ。それに、まだ、ウリヴィエリとは一度も話したことがないんです。もちろん、キャンプ地で話し合いを持つことになるだろうけど、はっきり言えることが1つあります。それは、彼の信頼を得るために相当練習しなくてはならないということです。当然そうあるべきだと思っていますし、ポジション争いという側面も僕にとってはすごく刺激になるんです。
もし、来年、W杯が日本と韓国で開催されるというようなことがなければ、出番が少なくてもローマに残ったかもしれない、というのは本当の話なの?
N ―― 僕の選択はW杯とは何の関係もないです。もちろん、W杯を1つの大きな目標として捉えています。でも、僕はその時点での目標に集中することにしているんです。だから、今回の移籍に関しても、僕のマネージャーとともに、届いているオファーを検討しただけです。目標は、コンスタントにプレーできる環境を見つけることでした。シーズン終了後にW杯があるとかないとか、そんなことは全然関係ありません。ローマでの体験も素晴らしいものでした。でも、今はパルマのことしか考えていません。自分が所属しているチームの勝利に貢献できるようなプレーをしていれば、W杯に向けても自ずと良い体調、良い精神状態で臨めると思っています。
パルマはブッフォンとテュラムをユヴェントスに放出、アモローゾをボルシア・ドルトムントに売却。ひとまず“パルマの時代”は終わったという見方をするべきかな?
N ―― パルマのメルカートの状況を“後退”とは見なしていません。むしろ、その逆です。パルマはレベル的にはローマと変わらないと思っています。ローマがスクデットを獲得できたように、パルマだってスクデットを手にすることができるはずです。カルチョの上位の座に10年近く君臨しているチームです。それに組織的にもしっかりしている。ファンの期待に応えるような成績を上げられるはずなんです。チャンピオンズリーグでも相当やれるはずです。イタリア国内でも、ヨーロッパでもタイトルを獲れるはずなんです。本当にそう信じています。
ただ、パルマはスクデットを未だかつて獲ったことがないですね?
N ―― 何事にも最初がある。パルマではスクデットとチャンピオンズリーグの2冠を目指すつもりです。潜在能力は十分にあると思っています。テクニック面でも、クラブの資金力という面でも。
でも、パルマの町はローマとはだいぶ違うよ。
N ―― 正直に言わせてもらえば、パルマでプレーするのを楽しみにしているんです。ここはローマほど騒がしくないですからね。ローマはイタリアの首都だし、美しい町です。でも、サッカーに熱くなりすぎているという感じがするんです。その点、パルマは穏やかな町だし、その上歴史もある。ファンと直接触れ合うことも可能な町だと思っています。ファンも穏やかだから、良い関係が保てると思うんです。いい町に来れたと思っていますよ。
スタディオ・エンニオ・タルディーニの印象は?
N ―― 敵チームの一員として何回かプレーしましたが、いい感じでした。陸上のトラックがないので、お客さんの熱気を直に感じることができる。本物のサッカースタジアムという感じがしましたね。
君はチーム側が提示してくれた1週間のバカンスを断ったそうだね?
N ―― キャンプに遅れて参加するというのはチームメイトに対して失礼になると思ったからです。サッカーは僕の仕事だし、僕の人生そのもの。一度この道を選択した以上、バカンスが取れなかったといって、それが犠牲だなんて考え方はできません。チームの必要条件、プロジェクト、プログラムに僕が合わせるべきだと思っています。チームが僕に合わせるべきものではないのです。
その代わりといっては何だが、チームは君に10番を用意してくれた……。
N ―― 僕は7番でもよかったんです……でも、10番は特別な番号ですよね。10番のシャツを身に付けるとモティベーションがより高まります。もちろん、それと同時に、責任も感じます。
ローマを去るにあたって何か感じたことがある?
N ―― 最高のシーズンでした。ローマでは多くの友達を作ることができました。ファビオ・カペッロとも良い関係を保つことができました。ペルージャを去る時に言った言葉を、ローマを去る今、もう1度言うつもりです。「プロのサッカー選手として一歩前進した」という言葉です。ローマではスクデットを手にし、重要なゲームで貴重なゴールを決めることができました。何か偉大で歴史的なことに参加できたという感じがしています。でも、これからは新たな歴史を作ることに専念するつもりです。僕を望んでくれたチームでもあり、僕が望んだチームであるパルマの歴史に新たなページを書き加えることに専念したいと思っています。
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